荒地に小麦 一粒蒔きて 七月一一日 「開墾」
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一年間。
短いようで作物が育つには十分な期間放置してしまった畑を開墾する。
またゼロからのスタートだ。
ここの園場は機械は入れずに自分の身体と感覚、先人達の知恵、そして溢れる自然を頼りに開拓していく。
土すらも雑草が生茂って見えない園場。
まずは足場を切り開いた。
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鍬の使い方もわからずただがむしゃらに耕す。
もちろん体力や握力はどんどんなくなっていくが反比例するように活力がみなぎる気がする。
1日も作業をしたらくたくただけれども安心感と充足感に包まれる。
求めていた感覚だ。
テクノロジーが発展して簡単に時間を買える時代になった。それはタイムマシーンの様なもので素晴らしいと思うけれども求めているものとは何か違った。
時間はかかるし体力も消耗するけれども全て自分の責任と知恵も体力でやり切ることに生きている実感を投影しているのかもしれない。
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開墾するまでに五日間かかった。
数字にすると短いが実際は先の見えない作業だった。
クローバーの根は深く細かく絡みなかなか取れない。
その種を去年は緑肥と草押さえとして播いていたから尚更量が多い、というよりもしっかり草を抑えて生えているおかげで背の高く小麦の天敵である雑草を抜き終えるとほとんどクローバー畑のようになった。
そのクローバーを鍬だけで取るのは想像以上に過酷だった。
この教訓はとても勉強になり、緑肥や草押さえとして播く豆科の種子は他に小麦の発芽時期になると枯れていくものもあることが中川さんへの相談でわかりそういった種子を今後は探していくことになる。
リセットされまたゼロに戻った畑。
一年後、ここが金色色に染まるかはわからない。
ただやれることはやってみようと思う。
誰のためでもない、
唯々その景色がみてみたい。
そうなった時自分はどんな感情に浸りそしてどんなパンを焼くのだろうか。
金色の糸に想いを馳せる。