昨日仕込んだ生地を気にしつつ布団に入ったがなかなか寝付けない1時間でふと目が覚め、生地の様子を見に行く。久しぶりのパン焼きは緊張から始まった。 夜が深まるほど室温も下がっていく。暖冬と言っても丹波の冬だ。朝夜は少し湿っぽい冷たさが身に染みる。生地を寝かした木の桶を窯の側まで移動してできるだけ保温する。空調設備は粉の部屋にしかないので温める時はこういった方法を使ったりもする。原始的だ。一挙手一投足で思考の波が押し寄せる。パン生地も窯の温度も上昇する。まさに自分を追い込む。パンを焼き上げるために。 結局朝の7時まで生地の発酵を待った。季節が変わるとこうも生地の状態が変わる。終わりのない旅の中のようだ。 今回は種の調子を見るためのいわば試し焼きなのだけれども使う素材はいつもと変わらない。安くはない材料を使う。生産者への尊敬もある。失敗はできない。 生地の成形も終わり窯に火を焼べる。昨日少しだけ燃やしたとはいえ半年以上寝かしていた窯だ。温度が順調に上がってくれるか。 田村さんの薪の焼べ方を真似して常に火の勢いが途絶えないようにインターバルを少なくして薪を焼べる。室温の上がり具合と自分の身体、感覚が頼りだ。 1時間40分。窯からパンを焼けると合図が来た。今までで1番早い。このやり方はいいらしい。燃費も悪く無さそうだ。うちの窯は天井が低いからあと5分、早く準備できそうだ。 緊張しながらパンを籠から一つ一つ木製のピールに出していく。いろんなことが走馬灯のように過ぎる。 祈りと尊敬、感謝を、込めて十字を切った。 ここからまた旅は始まった。 ドキドキしながら20分後に様子を見るために窯を開けた。しっかり焼き色がつき、パンも窯伸びしている。一安心だ。あとは最後の見極めでどこまで焼き込むか。 時間の関係もあり窯出ししたパン。窯から出した後にそこまでのこのパンの物語を想像する。あのタイミングであぁしていたら、もう少し最後の発酵を長く取れたなぁ、あと5〜6分は焼き込めたなぁ、そんなことを妄想する。 こんな時に、あぁ自分はどうなってもパンを焼く星の下にあるのだなぁと思う。 さぁここからまた旅を始めよう。
日の光で目が覚める。やっぱり自然の光で起きるのは気持ちがいい。少しずつ動くモードにスイッチを切り替えていくので光で目を覚ませるのもあと少しかな。 寝る前に窯の前に置いておいた種の調子を見に行く。いい感じだ。匂いもいい。よかった。これで一回仕込んでみよう。種の調子をみるためだ。 9日に実家に帰る都合があるのでお世話になっているのりこさんと三木のお店でお昼を食べる約束をしていて出かけたのだけれどもお店についてから店主さんに、予約したの明日ですよね、と申し訳なさそうに言われてしまった。一日日付けを間違えていた。笑うしかないと店主さんと笑う。まだお客さんも来ていなかったので少しお話しができた。それはそれでそういう運命だったのだろう。休業前に冷凍しておいたパンを渡すことができた。明日の感想が聞きたい。 急いで帰り仕込みを始める。ライ麦も小麦のカンパーニュだ。光に入るカンパーニュは小麦だけのものにしようと思っている。 厨房の配置も変わりなかなか手探りの感じだけれどもそういうのが改めて好きなんだと思った。やってみてその都度考える、効率も悪くある程度段取りを決めた方がいいのだけれども。 パン屋は段取り8割だ。多くの仕事がそうだ。うちはパン屋ではないかもしれないな。 久々に15キロくらいの生地を仕込む。思い出すように粉と水、種、塩を合わせる。手で仕込むとその間に他のことはできない。ひたすらに目の前の混ざりゆく生地と向き合うことになる。尊い時間だ。その時の気持ち、身体の状態が手のひらからの体温で生地に伝わる。そう、手捏ねは機械では代替できないのではないかと思っていたりもする。 がむしゃらに捏ねることはなく、優しく、重ねる、生地の重さを利用してあげるだけでいい。 まだ夜は寒い。完成した生地に麻の布を被せて窯の近くに移動させてあげる。半袖で厨房にいると寒い。生地も同じだ。 室温19°、生地温23°。湿度が、、60パーくらいか。重要な記録だ。毎日の積み重ね。 少し休んだら成形の工程に移り窯の着火だ。 山下りの始まりだ。
今日も雨の音で目が覚める。昨日とは少し違うリズムだ。止んだり、また降ったり、風の音も。 昨日の種の調子を見にいく。やはりまだ発酵力が足りないし、乳酸菌も足らないようだ。ヨーグルトのような匂いはしない。 今日は淡路島に行きそのまま実家の引き渡しに立ち会うために帰る予定だ。種も持っていこう。寒いから毛布にくるんでね。 淡路に抜けるまで変な天気が続いた。雨が降ったと思ったら晴れたり、また降ったり、しまいにはみぞれが降って来た。もう冬も終わりでこの暖かさ。夏はどうなるのだろうか。気候変動は続く。それも○の一端だと思いたい。 淡路島に入ると一気に青空が広がり潮風が心地よい。少し風は強いけれどもお気に入りの音楽を流しながら車で走る海岸線沿いは最高だ。 お世話になっている大和さんに淡路の方々を紹介していただいた。みんなエネルギーに満ち溢れていて帰りぎわには自分がへとへとになっていることに気づいた。 お腹が空きすぎて神戸の吉野家に駆け込んだ。生姜焼き定食を食べてからカレーをお代わりした。よく食べられたものだ。 「光」は静かなものにしよう。パンもどれも静かなものに。一筋の光が見えるような。 まだ少し暗闇の中を歩く。
しとしとという雨の音で目が覚める。風邪のない雨のの音は心地よい。休業中に寝かせていた種を昨日起こしたので様子を見にいく。 発酵力は弱そうだけれども何度か継なげば大丈夫だろう。昨日よりも少し水分を減らして種を継ないだ。これから乳酸菌を増やす工程に入っていく。「光」にはこの種を使ったパンが入るのだけれども酵母と乳酸菌のバランスが大切だ。個人的には今回は酸味を抑えたパンにしようと思っている。製粉したての粉の味を生かすためだ。 厨房の配置も大幅に変更した。一室は粉挽きに特化した部屋にした。これで製粉機の場所もゆったり確保できる。冷蔵庫も外の景色が見える部屋に移動したので気持ちがいい。最初からこの配置でよかったのではと思うけれどもなるべくしてこうなったのだろう。 朝継ないだ種を夜にまた継ごうと確認したけれどもまだ発酵力が弱い。季節柄温度が低いのでその影響も受けているのだろう。明日の朝まで様子を見ることにする。 冷蔵庫を運ぶのも、持ってきた製粉機を車から下ろすのも大変な作業で近くの大工さんに手伝っていただいた。快く引き受けていただき感謝。炉内を掃除するための木の棒が欲しいと相談するとすぐに加工して持ってきてくれた。 これもまた光だ。 力を使うとすこぶるお腹が減る。すき家で牛丼定食を夜中に食べて就寝。
朝目が覚める。一瞬ここがどこだかわからなかった。久々の家での目覚め。特有の凛とした寒さが顔に触れる感覚で眠気が覚める。 車に積んでいた荷物を下ろす。コーヒーでも飲もうと思い厨房に行く。出た時と変わらない匂いや景色がそこにはあった。時間が止まってしまっているかのような。またここでの時間を今日から紡いでいく。 半年以上火をくべずに放置してしまった薪窯に久々に火を焚べた。少し緊張と不安と高揚の中、無事着火。思った以上にしっかり燃えてくれた。特に以上もない。またパンが焼ける。よかった。 そこから何時間か燃やした。見つめる炎の揺らぎにいろいろが思い出された。 それでも炎の光は暖かで優しい。 またここから新しい船出だ。 オールは託されている。あとは漕ぐだけだ。
福岡で車中泊。ここに来て車中泊も慣れて来て寝るコツを見つけた。 帰りに岡山を通過するので一昨日行けなかったところに行こう。 そこは小高い山の上にあるカフェだ。天気もよく最高の景色が広がっていた。北村さんとは以前に少しメッセージでやり取りさせていただいたのでお話できればと思っていたけれどタイミングよくお会いできた。 新しく始める離れにも案内していただきいいお話をゆっくりさせてもらえた。 その後お腹も空いたのでもう一軒行きたかったお店に。車なのでお酒が飲めないのが惜しい。前菜五種盛りとパスタ、それにサワーチェリーのケーキをいただいた。ラベンダー風味のレモンシロップを炭酸で割って飲んだ。これは毎日飲める。 かなりゆっくりさせてもらって22時に岡山を経つ。 帰りは眠い目をこすりながらなんとか家に辿り着いた。 そのまま布団だけ引いて倒れ込むように就寝。